流れのまま…アカクラゲ

アカクラゲ

流れのまま、逆らうことなく漂うアカクラゲ。
海の色に溶け合うように、儚く繊細な姿を見せてくれます。
いかにも毒の強そうな濃い赤色と姿のとおり、刺されると痛いクラゲです。

和名: アカクラゲ
学名: Chrysaora pacifica
英名: Japanese Sea Nettle

なぜ「Japanese sea nettle」?アカクラゲの名前の背景

春から夏の海でよく見られるアカクラゲ。赤褐色の傘と長い触手が印象的で、日本の沿岸ではおなじみの存在です。英語では「Japanese sea nettle(日本のイラクサクラゲ)」と呼ばれていますが、なぜ「Japanese」なのでしょうか? また、学名 Chrysaora pacifica に込められた意味もとても興味深いので、ここで掘り下げてみましょう。

日本生まれだから「Japanese」

実はアカクラゲのタイプ産地は長崎。つまり最初に学術的に記載された場所が日本なのです。そのため英名に「Japanese」と付けられ、現在も「Japanese sea nettle」という呼び名が広く使われています。特にアメリカの公的水族館などでも、この名前が正式に採用されています。地理的に日本近海を中心に分布していることも、この名前を裏付けています。(Bayhaら 2017, PeerJ)

“sea nettle”とは?

「nettle(イラクサ)」は触るとチクッと痛い植物。その言葉がクラゲに転用されて「sea nettle=刺すクラゲ」という意味になりました。アカクラゲは強い刺胞毒を持ち、刺されると火傷のようにヒリヒリします。そんな特徴から「sea nettle」という名前がしっくり来るのです。(Merriam-Webster 辞書)

学名に隠されたギリシャ神話

黄金の剣 Chrysaor イラスト
学名の属名 Chrysaora(クリサオラ)は、ギリシャ神話に登場する英雄「Chrysaor(黄金の剣)」に由来します。ギリシャ語の「χρυσός(chrysos=黄金)」と「ἄορ(aor=剣)」を合わせた言葉で、まさに「黄金の剣」の意味。クラゲの半透明で黄金色に輝く姿を思わせる、とてもロマンのある命名です。(Morandini & Marques 2010, Zootaxa)

学名の由来となった“黄金の剣” Chrysaor

種小名 “pacifica” の意味

種小名の pacifica はラテン語で「太平洋の」という意味。アカクラゲが日本から太平洋側に広く分布することを示しており、学名と分布の特徴がきれいに重なります。(Bayhaら 2017, PeerJ)

アカクラゲをめぐる“勘違いの歴史”

実はアカクラゲには、長い間ちょっとした混乱がありました。かつて世界中の水族館では、このクラゲを「Chrysaora melanaster(キタアカクラゲ)」と表示していたのです。日本産のアカクラゲも同じ名前で扱われ、図鑑や展示でもそのまま紹介されてきました。

この誤解のきっかけは、1961年に研究者の Kramp が「日本のアカクラゲ(C. pacifica)」と「北方のクラゲ(C. melanaster)」を同じ種類だと考え、ひとつにまとめてしまったことでした。その後、この分類が長く使われ、モントレーベイ水族館など有名な施設でも「C. melanaster」と表示されるのが当たり前になっていったのです。

しかし2010年、Morandini & Marques という研究者たちが形態(触手や傘の縁の突起の数)を詳しく調べ、「日本のクラゲはやはり別種の Chrysaora pacifica である」と再評価しました。つまり、これまで「キタアカクラゲ」とされてきた日本産のクラゲは、実は別の“アカクラゲ”だったのです。(Morandini & Marques 2010, Zootaxa)

さらに近年のDNA解析でも、この結論が裏づけられました。アメリカの水族館で「C. melanaster」とされていたクラゲの遺伝子は、実際のキタアカクラゲ(ベーリング海産)とは大きく異なり、韓国東岸や日本(長崎周辺)で採集された C. pacifica とほぼ同じ遺伝子型だったのです。(Bayhaら 2017, PeerJ)

つまり、世界中の水族館で「C. melanaster」と呼ばれていた日本のアカクラゲは、正しくは Chrysaora pacifica(アカクラゲ)。長い間の勘違いがようやく修正され、今では正式に別種として扱われています。

名前に宿るクラゲの物語

このように「Japanese sea nettle」という英名や「Chrysaora pacifica」という学名には、単なるラベル以上の物語が込められています。タイプ産地が日本であること、刺すクラゲとしての特徴、そしてギリシャ神話の黄金の剣。名前の背景を知ると、アカクラゲを眺める楽しみが一層深まりますね。

参考文献・リンク

オリジナルの曲とイラスト

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